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大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)5031号 判決

原告 豊田てる子

右訴訟代理人弁護士 浅川文哉

被告 岡野農業協同組合

右代表者理事 吉田鉄治

右訴訟代理人弁護士 堀正一

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告は原告に対し金一二二、五二五円及びこれに対する昭和二八年一〇月一日から支払ずみに至る迄年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

一、訴外室谷景士は肥料販売商であるが被告に対し硫安等の肥料を昭和二八年七月六日に代金一四二、二七五円相当を、同年八月二八日に代金四八三、二〇〇円相当を、いずれもその月の末日払の約定で売渡した。然るに被告は右代金中五〇二、九五〇円を支払つたので残額一二二、五二五円となつている。

二、原告は右室谷に対し大阪法務局所属公証人茶谷勇吉作成更第三三六一号公正証書に記載せられた元金一、五五〇、〇〇〇円の返還請求権及びこれに対する金七八九二九一円の遅延損害金の請求権があり、これに基き、昭和三二年九月四日大阪地方裁判所に申立をして、同裁判所同年(ル)第四四七号同年(オ)第四八二号により、室谷の被告に対する前記売掛代金の債権差押及取立命令の発令を受け、右裁判は同年九月七日債務者たる室谷に、同月六日第三債務者たる被告にそれぞれ送達された。

三、尚室谷より訴外福井峻二に対し昭和二八年一一月九日右売掛代金債権が譲渡せられたが、右債権は、昭和三二年七月一五日福井より室谷に再譲渡せられ同月三〇日被告に右通知がなされて、右差押当時室谷が右債権を再取得している。よつて本訴を以て右売掛代金及びこれに対する昭和二八年一〇月一日から右支払済までの商事法定利率年六分の遅延損害金の支払を求める

と陳述し、被告主張の如き仮差押がなされていることを認め、証拠として甲第一、二、三号証、同第四、五号証の各一、二を提出し、乙号各証の成立を認めた。

被告は、「原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、

一、訴外室谷と被告との間に原告主張の如き売買がなされ、内払があつた結果残代金一二二、五二五円であること、右売掛代金債権に対し原告主張の如き差押及取立命令が発布送達されたことは認めるが、室谷より訴外福井に行はれた右売掛代金債権の譲渡、福井より室谷に対するこれが再譲渡、及び、原告と室谷との原告主張の如き関係は仮装である。

二、右売掛代金中金一二一、九〇〇円については訴外第一産業協同組合を債権者、室谷を債務者、被告を第三債務者として昭和二八年一〇月二六日神戸地方裁判所篠山支部に於て仮差押決定を受け右決定は同月二七日室谷及び被告に送達せられているから右金額の限度では支払に応じられない。

と陳述し、証拠として≪省略≫

理由

原告主張の売買契約により、被告は訴外室谷から商品を買受けて内金の支払をした結果代金残額は金一二二、五二五円となつたこと、原告を債権者、室谷を債務者、被告を第三債務者として右残代金に対し原告主張の債権差押及び取立命令が発せられ右裁判は昭和三二年九月六日被告に送達せられたことは当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第二号証によると、原告主張の右債権差押及び取立命令の裁判書には、請求金額としては元金一、五五〇、〇〇〇円損害金七八九、二九一円と併記してあるのに拘らず、被差押債権の表示としては債務者が第三債務者に対して有する肥料売掛代金一二二、五二五円と記載してあるのみで遅延損害金については何等の記載もないから、右差押並取立命令の対象は残代金の元金のみであつて、既に発生している遅延損害金を包含せしめる趣旨ではないことがあきらかである。そして、元本債権の差押及び取立命令の効力は既に生じている遅延損害金に対しては当然に及ぶものではないと解すべきであるから、原告は右差押並に取立命令によつては債務者に代り第三債務者から既に発生している遅延損害金の取立をする権限が与えられていないものといわなければならない。しからば本訴請求中右残代金に対する昭和二八年一〇月一日から昭和三二年九月六日迄の間の年六分の遅延損害金を求める部分については、原告は当事者適格を欠き、右部分の訴は不適法としてこれを却下することとする。

次に右残代金の内金一二一、九〇〇円について、訴外第一産業協同組合を債権者、室谷を債務者、被告を第三債務者として昭和二八年一〇月二六日神戸地方裁判所篠山支部に於て債権仮差押決定が発せられ、右決定は同月二七日室谷及び被告に送達せられたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一、三号証によると、室谷は訴外福井に対し前記残代金債権を譲渡し、これが通知は右仮差押が効力を発した後である昭和二八年一一月一〇日被告に到達していることが認められる。右債権譲渡が被告主張の如く仮装であることを認めるに足る証拠はなく、右債権譲渡は、右仮差押の範囲内においては仮差押債権者に対抗できないが、右仮差押債権者でない、右譲渡当事者、及び原告、被告の関係では有効であつて、右債権は室谷から福井に移転したものといわなければならない。

そこで職権を以て調査するに、その後福井は被告に対し、神戸地方裁判所篠山支部に於て同裁判所昭和二九年(ワ)第一〇号を以て右譲受残代金一二二、五二五円及びこれに対する昭和二九年七月一五日以降完済に至る迄年六分の遅延損害金請求の訴訟を提起し、同裁判所から、右請求のうち金六二五円及びこれに対する昭和二九年七月一五日以降完済に至る迄年六分の遅延損害金の請求部分については勝訴の、その余の請求については前記仮差押中の債権であることを理由として請求棄却の判決を受けて、これを不服として大阪高等裁判所に控訴中の昭和三二年六月二八日右訴の取下をしたことが、前記乙第三号証と被告提出に係る神戸地方裁判所篠山支部の証明書により認められる。右取下の結果民訴二三七条二項により、福井は、右勝訴部分については絶対に、右敗訴部分については前記仮差押の解放せられるまで、右訴訟と同一の訴を提起することができないものである。そして同条項制定の趣旨目的にかんがみるときは、右制限は取下をした本人及びその一般承継人はもちろん、その特定承継人にも及ぶものと解すべきである。

成立に争いのない甲第五号証の一によると、福井は被告に対して、右残代金債権を昭和三二年七月一五日福井より室谷に譲渡した旨の通知を同月三〇日付で発していることが認められるから、右事実により原告主張のとおり福井より室谷に右債権が再譲渡せられたことが推認せられ、これが被告主張の如く仮装であることを認めるに足る証拠はなく、成立に争いのない同号証の二によると右譲渡通知は同月三一日被告に到達していることが認められる。しかしながら、室谷の右譲受債権は前記認定のとおり再訴禁止の制限付債権であるから、室谷も福井と同一の制限に従わなければならない関係にある。そして原告はその主張の債権差押並に取立命令により室谷の債権を同人に代つて行使するものであるから、再訴禁止の点についても室谷と同一の制限に従うべきことは当然であり、本訴請求中前記以外の部分も民訴二三七条二項により不適法として却下を免れないところである。

よつて訴訟費用の負担につき民訴八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前田覚郎 裁判官 山中孝茂 石垣光雄)

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